先月はイタリア、10月は女満別(めまんべつ)を始点に北海道の秋風に吹かれて道東をのんびり巡る。一応考えたルートは厚岸、羅臼、網走。まず一日目はレンタカーのナビの先導をえて美幌峠、弟子屈(てしかが)から標茶(しべちゃ)を経由して厚岸(あっけし)へ。
道路はスイスイ、すれ違う車の数もまばら、快適ルンルン。おっと調子に乗ってはいけませぬ。アクセルは抑えめ70〜60キロをキープ。最初の観光地、美幌峠に差し掛かる頃には雨が落ち始め、眼下に屈斜路湖の絶景は広がらなかった。
美幌峠で小休止の後、いざ再出発。「うっ- - -(汗)」。バッテリー上がりかな?ウンともスンとも、なのだ。慌ててレンタカー会社にコトの次第を連絡すると、「始動してもハイブリッド車なのでエンジン音はしないんですよ」とやんわり教えられた。情けない、知らなかったっス。
あいにくの空模様のため予定よりも1時間早く厚岸「牡蠣まつり」会場に着いた。平日と言うのに駐車場はほぼ満杯。それぞれのグループが10個、20個と牡蠣を買ってレンタルしたBBQセットを囲んでいた。自分は3個700円の焼き牡蠣をハフハフ。ちなみに露店内で食べているのは観光客、広場テント下に陣取るのは地元馴染みとみた。牡蠣なんぞ普段口にしないので比較は出来ないが、これが本場の味なんだ、と舌に言い聞かせた。
で、今宵の宿は民宿「喜多岬」、朝食込み4,500円。早めに投宿して部屋でゴロゴロした後、当地郊外の牧場などに飼料を卸す同宿の人と風呂を共にする。「ここの女将の料理は美味いんだよ」と聞くと、夕食も頼むべきだったかと少し反省。でも、地元の酒場を歩くのも旅行の楽しみと気を取り直して「和ちゃん」へ。ここでは中生二杯で秋刀魚焼を流した。エンジンが温まってきたところで寿司で仕上げ、と思ったが月曜日&雨降りのせいかお目当二軒の寿司屋が暖簾を仕舞っていた。自分の筋書きが曲げられた時のガッカリはない。
二日目は朝から強風に見舞われたものの根室、中標津辺りは好天に恵まれる。宿の朝飯をガッツリ胃袋に収め出発だ。
「秋刀魚一箱1,800円だよ」と女将に聞いたので早速、漁協直売店を冷やかす。大振りではないが一尾70円の浜値段、参った。好物には違いないが、宅配しても一箱はとても食べ切れないな。
ハンドルを霧多布に向ける。根室地方も強風また強風。身体を斜めにして踏ん張らないと岬展望台に立てない有様だ。むっ、ルパン3世の街路灯が方々に見つかる。「どうして」と町役場商業観光課でその理由を尋ねると「作者モンキーパンチ先生の出身地なんですよ」と峰子ちゃん、いや女子職員が応じてくれた。しかしまあ、今回のドライブはどこも海抜1〜数メートル程度の海沿いだ。津波が起こったら役場も人家もすべて水没流失の運命だがー。
さらに車を進めよう。この先の44号線沿いに「ガイアの夜明け」で放映された拘りレストラン「ファームデザイン」がある。和食を離れて偶にはハイカラ昼メシを摂ろう。頼んだのは「モデナプレート&珈琲」。店の前に広がる牧草、店が掲載されたいくつもの本を眺めての1時間近くのんびり過ごした。
今夜は羅臼と決め、携帯から予約を入れる。「一泊朝食で5,500円、風呂とトイレは部屋に有りませんけど、いいですか?」に、「ええ、構いません」と返答。これで安心、右手に海を従えて国道を北上する。風蓮湖からその先に北方四島の資料館を併設した道の駅「おだいとう」があるのでトイレ休憩を兼ねて見学。対岸20キロ先には国後島が覗ける。条約どうこうは別にしても、海洋資源のためにも改めて「国土」と叫びたいものだ。
ここまで来たら野付半島トドワラ、ネイチャーセンターを素通りする訳にはまいるまい。湖と外海に挟まれた道路を駆けると強風に煽られ外海がザバーンと白波を立てる。ワイパーとウォッシャー液で視界を確保しなければ車は進めない有様だ。
羅臼着。早々ホテル店主に「酒場放浪記のような店、魚が食べたいんだけど」と投げると「漁師は家でうまい魚を食ってるので、ここでは焼肉が多いんだよ」と。確かに、ご説ごもっとも、である。そんな訳で、「ビジネスホテル漁火」のそばの「鳥吉」さんが今夜のディナー会場と決定。5時半とあって自分が口開けとなる。焼き鳥メインだが無理を願い、秋刀魚を焼いてもらう。地の鮭もサービスして貰うラッキーにも預かる。こうなったらビールから日本酒に移るっきゃなかんべぇ。ウィ。いい気分になっちゃったな。
「鰊と黒ダイヤ」の繁栄は何処に?エネルギー政策転換と漁業の低迷。申し訳ないけど本土の自分には、北海道の輝きはすでに消えたように見える。5日付北海道新聞には漁獲と廃止路線が1面を飾っている。
JTB旅行本「ブルーガイド」が部数を伸ばし、横長リックサックを背負った「カニ族」が北の大地に押し寄せた40年前、国鉄周遊券を片手に寝袋担いだ若者が幸福駅や摩周湖、尾岱沼や羅臼などの「聖地」を巡った。
最初の北海道は「輪行」(折畳み自転車を専用袋に入れて交通機関で運ぶ)だった。東京〜釧路を船で33時間。釧路で自転車を組み立て弟子屈、網走、紋別、枝幸、稚内とペダルを漕ぎ続けた。摩周湖の坂を下る怖さ、小清水原生花園のハマナス、雨に祟られた紋別からの道のり枝幸の街明かりが見えた時は嬉しかったなぁ。自分の脚でつまびらかに刻んだ思い出だ。
2度目の羅臼。「知床旅情」や「北の国から」に想いを寄せた前回と違って、冷めた目で街並みを見られた。熱く羅臼を語った地元情報発信拠点の喫茶店が消えていた。季節か時間帯のせいか、漁船の動きが見られない。
三日目は知床峠を越えてウトロ、斜里、網走まで100キロを走る。峠でのんびり、いやとんでもない。気温10度以下、強風で体感はその半分だろう。ここはウトロ側に駆け逃げるに限る。大きなホテルが立ち並ぶ海岸線におり道の駅で小休止。観光遊覧船はシケで欠航、一部のコースはすでに季節外れだった。
網走に向けしばらくオホーツク海沿いを走り斜里町で昼食タイム。久しぶりのラーメン、濃い醬油味が新鮮に感じた。先月の台風10号で甚大な被害を受けた北海道、網走〜札幌間の鉄道も今月から運行を再開できていた。
左に濤沸湖、右には小清水原生花園。懐かしい場所だ。ハマナスが紅い実を付ける以外、この季節の花園はモノクロームの世界に進んでいた。退屈そうな売店のおばさん曰く。「昔は観光客も多かったんです。駅員も居たくらいですからね。ご覧のとおりシーズンも終わり、今月末で私らもここを閉めるんですよ」。
車のスモールランプを点ける頃、最終泊地の網走「オホーツクイン」に到着。バス・トイレ付、空気清浄機・エアコン完備のビジネスホテルは朝食付で5,100円。ネオン街も控え気分もグッと上向きだ。網走にはジャズ喫茶「デリカップ」があり真っ先に店を訪ねた。会話も出来る音量の店内、珈琲をすすり終えたところで「お薦め酒場」を聞いてみた。
お店に居合わせた常連さんの推薦を得たのが3軒。うち自分の触覚と嗅覚に合ったのが「蒸気船」だ。早速カウンターに陣取り、取り敢えずのサッポロビール。店内をぐるり見渡すと有名ミュージシャンや芸人などの色紙が壁を埋めている。地元だも評判の店である事が伺える。やはり自分の目に狂いはないぞ。肴に刺盛1,000円と、鮭の切り込みを試す。初めて口にした切り込みは鮭の麹漬け、ねっとり実に美味い。今回の旅行で一番のグルメ。こうなったら熱燗の出番だ。網走サイコー。上機嫌な足取り、何故に道路センターラインは真っ直ぐでないのかな、ウィ。
10月6日は網走市内から30分、車で女満別空港まで走りレンタカー返却。自宅に無事帰るまでが旅行、との先輩の言葉を思い出しながら3日間を締めくくった。上空、幸い関東に近づくにつれて視界も良くなり、茨城大子町から常陸大宮市にかけて筑波山から富士山までが遠望出来た。健康、生きてるっていいもんだな〜。すべてに感謝!(終)